お知らせ・新着情報
2025 / 09 / 01 09:00
🐾 ペットフード業界に学ぶ「持続可能な商品開発」の4つの視点

一度は手に取ったのに、気づけば買わなくなっていた商品。
皆さんにも、そんな体験はありませんか?
実務で見ると、ペットフードでも食品でも、同じ現象が繰り返されています。 ここ数年、ペットフード業界では「無添加」「機能性」「健康志向」を掲げる商品が急増しました。 ペットフード市場全体は拡大を続けていますが、その裏で——思ったほど継続しない商品も少なくないのが実情です。
実際、当所には毎月50件前後のペットフードOEM相談が寄せられますが、その99%が「無添加」や「機能性」を前面に掲げた企画です。
もちろん意図は理解できますし、製造もお受けしています。 ただ本音を言えば、**「開発段階から設計までご一緒できれば、もっと継続性のある商品にできるのに」**と感じることが多いのです。
それだけ商品設計前の「企画」の視点が、一方向に偏っているということでもあります。
これは食品業界でも同じです。 「コラーゲン飲料」「DHA入りおやつ」など短期ブームで消えた商品がある一方、乳酸菌飲料や高齢者向け栄養補助のように、生活文脈や継続体験まで設計に組み込んだ商品は今も市場に根づいています。
👉 特に機能性表示食品では、制度開始からの累計届出件数は8,000件を超えますが、そのうち1,600件以上が撤回されています。
つまり「一度は市場に出たが、続かなかった商品」が相当数存在するということです。
◇持続可能な商品開発を支える4つの視点
1️⃣ 栄養設計
成分を“入れる”のではなく、効き目に届く用量を継続して届けられるか。 総合栄養食や日常摂取との整合が前提です。
2️⃣ 市場適合性
「需要がある」だけでは成立しません。 既に形成された 価格・品質・供給体制=相場 に、供給スケールや原価構造が持続適合できるかが成否を分けます。
3️⃣ 品質管理
“無添加”や“常温流通”を掲げるほど、酸化・保存安定性・包材コストのせめぎ合いはシビアになります。 品質保証の仕組みを設計段階から組み込む必要があります。
4️⃣ 消費者価値(イミ消費)
素材や機能性だけでは差別化になりません。 「なぜその商品を選ぶのか」という継続理由を、**用途(誰のため)×使い方(どの期間)**まで言語化することが不可欠です。
✅ ペットフード市場は今も拡大を続けています。 しかし「無添加」「機能性」だけでは、残念ながら継続購入を生む力には足りません。 だからこそ、栄養・市場・品質・価値を統合的に設計する力が、商品を短期ブームで終わらせず「持続可能」に育てる条件だと思います。
2025 / 08 / 30 20:29
なぜ経産省は“健康”を経営課題にしたのか? ──人とペットの共生から見えてきた、企業と社会の未来

🐾 ペット栄養管理士として活動していると、日々感じることがあります。
犬や猫の健康を守るには、必ず「飼い主の生活習慣や体調」に行き着くのです。
ペットの食事を工夫しても、人の暮らしが不規則であれば本当の意味での健康共生は難しい。だからこそ、私は保健師や鍼灸師といった医療従事者と連携し、“人とペットの両方の健康”を支える取り組みを続けています。
では、この視点を「家庭」から「企業」に広げたらどうなるでしょうか。
実はこれこそが、経産省が推進する**「健康経営」**の考え方に直結しています。
経産省が健康を経営課題にした背景には、少子高齢化と労働人口減少があります。従業員の健康を“コスト”ではなく“未来への投資”と捉えなければ、企業は持続的に成長できません。欠勤や離職、プレゼンティーズム(出勤していても生産性が落ちている状態)が積み重なれば、組織力は確実に損なわれます。国が主導して「健康経営優良法人」認定制度を設けているのも、企業の生き残りに直結するテーマだからです。
私自身の現場感覚からも、これはよくわかります。
家庭単位で「人とペットの健康」が支え合っているように、企業でも「個人と組織の健康」は切り離せません。人が健やかに働ける環境があってこそ、企業は力を発揮できる。
健康はコストではなく資産。
人とペットの共生を通じて学んだ視点は、そのまま企業の未来を築く健康経営の本質と重なります。
※画像は、生成AIにより作成した画像を使用しています。
#健康経営 #ウェルビーイング #人的資本 #共生社会
2025 / 08 / 26 09:45
✨ 元気・筋肉・被毛ケアに!ワンちゃんに牛肉を与える時の正しい量と工夫 ✨

~ペット栄養管理士が解説する“ちょい足し”の安心ルール~
☀️ 残暑が厳しい毎日ですね。
人もペットも「どんな食材をどう使うか」で、体調の差が出やすい時期です。
今回はレシピではなく、「素材そのもの」に注目して解説します。
テーマは—— 牛肉。
身近で人気のある食材ですが、実はメリットと注意点の両面を正しく理解しておくことが大切です。
🥩 牛肉の特徴とメリット
牛肉は良質なたんぱく質を含み、筋肉や被毛の維持に役立ちます。
さらに、鉄や亜鉛といったミネラルが豊富。
鉄:酸素を全身に運び、疲れにくい体づくりをサポート
亜鉛:皮膚や被毛の健康を支える
このように、牛肉は元気で若々しい状態を保つための栄養源といえます。
特にシニア期や換毛期など「体力や毛づやを意識したい時」に、サポート食材としての役割を果たします。
🐾 なぜ“少量”が基本なのか?
一見すると「体に良さそうだから、たくさん食べさせたい」と思いがちですが、牛肉には以下のリスクがあります。
1️⃣ 栄養バランスの崩れ
牛肉だけではカルシウムやビタミン類が不足し、総合栄養食の代わりにはなりません。
👉 牛肉はあくまで副食。主食フード(総合栄養食)は必須です。
2️⃣ 脂肪とリンの多さ
脂肪やリンを過剰に摂ると、膵炎や肥満、腎臓病リスクにつながります。特に小型犬や高齢犬では注意が必要です。
3️⃣ 消化のしにくさ
牛脂は融点が高く、体温で溶けにくいため、下痢や消化不良の原因になりやすいのです。
👉 豚肉や鶏肉と比べたときの大きな違いです。
4️⃣ アレルギーリスク
牛肉はワンちゃんの食物アレルギー原因食材の上位に挙げられます。
👉 初めて与える場合は必ず少量から試すのが安心です。
🩺 疾患があるワンちゃんの場合
腎臓病:リンやたんぱく質の負担で進行を早める恐れがあります。
膵炎:脂肪の多い部位は再発リスクを高めます。
肥満:高カロリー食材のため、体重管理中は控えめに。
👉 疾患を持っている場合は、必ずかかりつけの獣医師に相談してから与えましょう。
🧂 加工肉のリスク
ハム・ソーセージ・コンビーフなどの加工肉は、塩分・香辛料・保存料が含まれており、ワンちゃんには不向きです。
特に塩分過多は心臓や腎臓に負担をかけるため、必ず避けてください。
🔥 生肉のリスク
市販の牛肉をそのまま生で与えると、食中毒菌(O-157、大腸菌、サルモネラなど)や寄生虫のリスクがあります。
👉 ワンちゃんの体調を守るためにも、必ず加熱調理してから与えましょう。
📊 量の目安と実践のコツ
では「どのくらいまでなら安心か?」というと、
👉 体重1kgあたり2〜3g/日が上限 と考えるのが安全です。
例:小型犬4kgなら 1日10g前後。
ごはんの上に“トッピング感覚”でのせる程度で十分です。
与える際の工夫としては:
赤身中心を選ぶ(脂肪を避ける)
細かく刻むか軽くゆでる(消化を助ける)
総合栄養食をベースに添える(栄養バランスを守る)
🧓 シニア犬や体重管理中のワンちゃんへ
牛肉は栄養価が高い反面、脂肪やカロリーも多いため、「毎日の必須食材ではない」ことを覚えておきましょう。
シニア犬では腎臓や膵臓に負担をかけやすい
体重管理中の犬では肥満の原因になりやすい
👉 週に数回の“ご褒美トッピング”程度にとどめるのが現実的で安心です。
✅ まとめ
牛肉は「元気・筋肉・被毛ケア」に役立つ食材ですが、与えすぎは逆効果。
また、牛肉単体だけでは総合栄養食の代わりにはならない点にはご留意ください。
“主食フード+少量トッピング” が鉄則です。
🌱 合言葉は「少しプラスで健康アップ」。
赤身を少量、必ず加熱、主食フードと一緒に、加工肉は避ける、毎日必須ではない——この5つを守れば安心です。
💬 ご質問やご相談などはお気軽にどうぞ。
LINEオープンチャット「ペットとシニアのほっこりライフ」で、いつでも受け付けています。
→ https://line.me/ti/g2/eZjHJhQx86cJcfrx4OxQjZtXiyturi8v9VlIlg?utm_source=invitation&utm_medium=link_copy&utm_campaign=default
2025 / 08 / 23 09:00
🐾 ペット栄養管理士ってどんな仕事? 〜獣医療の“境界線”から見えるペットの健康の守り方〜

「ペット栄養管理士」という資格をご存じでしょうか?
名前は聞いたことがあっても、実際にどんな仕事なのかはあまり知られていません。
この資格は国家資格ではなく民間資格ですが、誰でもすぐに取得できるものではありません。
受験資格としては、所定の講習会の修了、あるいは獣医学・畜産学・農芸化学など関連分野を大学や専門学校で学んでいることなど、一定の条件を満たす必要があります。
さらに、試験は**ペットフード総論・ペット基礎栄養学・ペット臨床栄養学(衛生学を含む)**の3分野から100問が出題され、合格点は非公開。これに合格して初めて認定されます。
つまり、体系的な学習と試験を経て知識水準を担保する資格であり、栄養に関する一定以上の専門性を持つことを示す認定なのです。
ペット栄養管理士の役割をひとことで言えば、“暮らしに寄り添う栄養士”として日常を支える存在です。
診断や治療はできません。けれど、栄養素の働きや代謝の仕組みを理解して、毎日のごはんやフード設計に活かすことで、ペットの健康寿命を支えることができます。
✅ ペット栄養管理士の仕事
では具体的に、どんなことをしているのでしょうか。
・フード設計・商品開発
原材料や栄養素の働きを理解し、科学的根拠をもとにレシピを組み立てる。
・日常の食事アドバイス
ライフステージ(子犬・成犬・シニア)、体質や生活環境に応じて食事の工夫を伝える。
・機能性への配慮
皮膚や被毛、関節、消化といった“気になる部位”に配慮したごはんを考える。
・受診勧奨のサポート
飼い主が迷ったときに「これは食事相談の範囲ではなく、動物病院で診てもらいましょう」と背中を押す。
・・・つまり、病気を治すのではなく、未病・予防・健康維持を目的に、日常を支える栄養の実務を担うのがペット栄養管理士の仕事です。
その栄養の効果を煮詰めていく際、どうしても獣医療の範疇に踏み込んでしまうのも事実で、そこに獣医療との境界線をどう線引きするのかが重要になります。
⚖️ 獣医療との境界線
実際に精密かつ綿密なフード設計を行うには、どうしても臓器や栄養素の代謝に関する知識に踏み込むことになります。
ここで獣医師が持つ知識と栄養管理士に求められる知識が一部で重なり、境界線をどう設定し、どう獣医師との線引きを図っていくかが課題になるのです。
例えば、脂質代謝。
脂質の扱いはフード設計において重要な要素であり、同時に獣医療と栄養管理の知識が交わる典型的な分野です。
なぜ低脂肪設計が必要になる場合があるのか、なぜ中鎖脂肪酸(MCT)が役立つことがあるのか──。
これは基本的な代謝メカニズムであり、これを押さるかどうかで、フード設計に多大な影響を及ぼすのです。
まずは簡単に脂質代謝のメカニズムを説明しましょう。
🔬 脂質代謝のメカニズム
1)乳化
食事に含まれる脂肪は大きな塊のままでは吸収されません。
そこで胆嚢から分泌される胆汁酸が、脂肪を細かい粒に分散(乳化)し、酵素が作用しやすい形に整えます。
2)分解の前処理
(前処理として)胃でも胃リパーゼが一部の脂肪を分解します。
3)分解
膵臓から分泌される膵リパーゼ+コリパーゼが、トリグリセリドを切り分け、遊離脂肪酸+2-モノグリセリドに分解します。
4)吸収
胆汁酸が「ミセル」を形成し、分解産物を小腸の壁まで運び込み、吸収されます。
5)再合成・輸送
小腸に取り込まれた脂肪は再びトリグリセリドに合成され、カイロミクロンという輸送粒子にパッケージされます。
これがリンパ管→胸管→血液を通って全身へ流れます。
6)末梢利用
カイロミクロンは毛細血管で**LPL(リポタンパク質リパーゼ)**によって脂肪酸を切り出し、
筋肉や脂肪組織に取り込まれてエネルギー利用・貯蔵されます。
7)肝臓での処理
余ったカイロミクロン(レムナント)は肝臓に取り込まれ、アポE依存性に受容体(LDLR/LRP1)を介して取り込まれ、
β酸化(燃焼)、ケトン体産生、VLDL再合成などに使われます。
例外:中鎖脂肪酸(MCT)
MCT(主にC8・C10)は再エステル化が少なく、主として門脈経由で肝臓に届き、速やかにβ酸化されます。
(※C12〈ラウリン酸〉は挙動が中間的で、一部はリンパ経由になる)
💡 わかりやすく言うと(流れの物語)
脂肪の旅を例えてるとこうなります。
食事で入ってきた脂肪は、そのままでは大きすぎて扱えません。
1)まず胆汁酸が「石けん工場」として働き、油を細かくして運びやすい形に整えます。
2)その後、胃では「下請け工場」として胃リパーゼが少しだけ下処理をし、
続いて膵リパーゼという「ハサミ工場」が本格的に登場し、脂肪をさらに小さな部品に切り分けます。
3)切り分けられた部品は「ミセル」という小さなバケツにまとめられ、小腸の入り口まで運ばれて吸収されます。
4)吸収された脂肪は「カイロミクロン」という宅配便の箱に詰め直され、リンパ管から胸管、そして血液へと流れ出していきます。
5)配送された箱は各地の倉庫に届き、そこで「LPL」というフォークリフトが荷物を下ろし、筋肉や脂肪組織に燃料や貯蔵品として利用されます。
6)それでも残った荷物は「本社工場=肝臓」に集められ、燃料として燃やされたり、再び新しい荷物(VLDL)に仕立て直されて出荷されたりします。
7)そして特別便が「MCT」です。
普通の宅配便ルートを使わず、バイク便のようにまっすぐ本社に直行し、すぐに燃料へと変えられるのです。
⚖️ ここに境界が生まれる
この一連の仕組みを理解していなければ、
・脂肪量をどう調整するか
・どの種類の脂肪を選ぶか
・どの段階で臓器に負担がかかるか
といったフード設計の根拠を持つことはできません。
ですので、ペット栄養管理士にも代謝の基礎知識は必須、というわけです。
ただし、ここで大切なのは──
獣医師と栄養管理士がまったく同じ知識を持っているわけではないという点です。
獣医師は代謝の知識をさらに深く掘り下げ、病理学や臨床経験と結びつけ、診断・治療・処方に活かします。
一方で栄養管理士は、フード設計や商品開発、日常の食事提案に応用するために基礎知識を学びます。
つまり、知識の深さが違うからこそ、責任の重さと使い道も違う。
獣医師:深い医学的知見と臨床経験を背景に、診断・治療・処方を行い、その最終責任を負う。
栄養管理士:基礎理解をもとにフード設計や日常的な食事提案を担うが、最終判断は必ず獣医師に委ねる。
獣医師は命を預かる立場として最終的な判断を下します。
栄養管理士はその知見を尊重し、知識を“日常に活かす”立場で支える存在です。
ここにこそ、獣医療とペット栄養管理士の明確な境界線があるのです。
✍ まとめ
健康な時の日常管理や未病・予防に関しては、栄養管理士が学んだ知識とこれまでの知見で十分対応できます。
ただし、病気や治療に関わる食事については、最終的に判断するのは獣医師です。
栄養管理士はその判断を尊重し、健康時の日常支援を中心に補助的役割を果たすことで、より良い生活のサポートが可能になります。
実際、膵炎の既往歴があり肝臓疾患を抱えるワンちゃんのフード開発に携わった際、獣医師から依頼を受けて協働した経験があります。
そのときに目の当たりにした獣医師の知識の深さには驚嘆し、同時に多くを学ばせていただきました。
この経験が、栄養管理士として「知識を活かしつつも最終判断は獣医師に委ねる」という姿勢の大切さを強く意識するきっかけになっています。
そして忘れてはいけないのは、食事もまた生命維持活動の一部であり、命を預かる行為であるということです。
だからこそ、常に研究文献をチェックし、最新の医療知識や栄養学に触れ続ける必要があります。
ペットの健やかな暮らしを支えるために、学びを止めず、実務に活かし続けること──
それが私たちペット栄養管理士に求められる姿勢だと考えています。
これからも、ペットと飼い主さんの“より良い日常”を支えるために、全力で取り組んでいきます。
2025 / 08 / 22 06:00
犬のフード選びの落とし穴 ─ 皮膚ケアと体重管理はなぜ両立しにくいのか?

新着記事を公開しました。
皮膚・被毛ケアと体重管理は、ともに飼い主が強く関心を寄せるテーマです。しかし、栄養設計上はしばしば「相反性」が生じ、両立を強調するほど効果が薄まるリスクがあります。
本稿では、
・栄養素の拮抗作用・相互作用・トレードオフ
・機能性フード設計における限界と実例
・総合栄養食を基盤とした優先順位付けの重要性
について整理しました。
詳細はnoteに掲載しています。ぜひご一読ください。
👉 https://note.com/fanddf
#ペット栄養学 #犬の健康 #ドッグフード開発 #機能性フード #総合栄養食